metropolis 12
脈絡のない問いかけ。
前後の流れが全くつかめない。
ただでさえ動揺しているのに、処理しきれていないのに。
「選択肢はふたつ。さっき見せたC-25の後継種を引き取るか、それとも本物のチャンミンとともに眠り、未来を生きるか。もちろん、どれくらい先になるかはわからないし、目覚めない可能性もある」
「は…?」
頭のいい人間というのはどうにも苦手だ。
混乱しているところに追い打ちをかけ、さらに混乱させる。
「いや…悪いね?人付き合いっていうのが苦手っていうか、話すのが苦手っていうか…」
「…」
「チャンミンくらいなんだ、僕と会話が成立したのは」
うん、そんな感じがする。
さっぱりオレにはわからない。
「チャンミンは寂しがり屋なんだ。だから、もし起きたときに誰も知っている人がいないっていうのはかなりキツイんじゃないかと思っててね」
だんだん、頭が正常運転を開始したみたいで、ちょっとイラってする。
おそらく冷静になれたのはこの人のおかげなんだろうけど、でも、それでもイラってする。
それってさ、チャンミンのためにオレをどうにかしようってコトだよな?
「だから、ユンホ君ならどうかなって思ったんだけど」
「…」
「もちろん、無理にとは言わないよ。ただ、僕が勝手にそう思っただけだから」
いまの問いかけなんか忘れたみたいにくるりと背を向け、来た道を戻っていく。
独りここにいるのはどうかと思えて、でもチャンミンのそばを離れたくないような気もして。
「…」
でも、オレはその人を追いかけた。
振り返ることもなく、オレがついてくるのを確認することもなく、スタスタと歩いていく。
ホントにこの人は、人付き合いが苦手なんだろうな…。
素直にそう思った。
同時に、怒るだけ無駄だということも。
「一応、計画表を作ってみたんだ。よかったら目を通してみて」
「はぁ…」
「すぐには答えでないだろうから、とりあえずC-26を連れてって。連絡先は…これ、名刺渡しておく。何かわからないところがあったらC-26に聞いて。記憶させてあるから」
なんか、さっきからイラってすることが多い。
人付き合いが苦手ってだけで納得できないものがある。
「あの、さ」
「はい?」
「そのC-25とか26ってやめてくれない?なんか、腹立つ」
思ったまま言葉にすれば、きょとんとした表情。
そして次の瞬間、彼は笑っていた。
怒られたのに、なんで笑う?
ホント、理解できない。
「君もチャンミンと同じことを言うんだね」
「え…?」
「でもね、これが僕なりの整理方法なんだ」
意味が分からず、不機嫌さは隠さないまま首を傾げた。
「だって、名前を付けてしまったら愛着がわいてしまうでしょう?もしかしたらすぐ壊れてしまうかもしれないのに、誰かの手に渡ってしまうかもしれないのに」
「…」
理由を聞けば意外と普通で、理解できた。
「悪いね?なんていうか…言葉に不自由っていうか…。チャンミンにもよく言われてたんだけど、どうしようもなくて」
はははっと乾いた笑いを浮かべ、C-26と呼ばれたそれへと近づいた。
まるでこれから心電図でも取るかのように器具を手首と足首と、そして胸元に装着する。
そして装着した機械から伸びたコードは大きな機械へと接続されており、彼はその前へと立った。
「すっげ…」
何もない空間にたくさんの英数字が浮かび上がる。
映画の中でしか見たことがないような未来の世界がそこにはあった。
「異常なし」
何が起こるんだろうかと少しワクワクする。
でも、いくら待ってみても何も起きない。
だんだん疑いが強くなって、眉根にしわが寄っていた。
「何も起きないけど…?」
10分ほど待ってみたが何も起きず、オレは痺れを切らしてそう呟いた。
頬が引きつっているのはもう仕方ない。
それに、そんな小さいことをこの人が気にするとも思えない。
「おい…っ」
そう言った瞬間、固くて冷たいテーブルのようなそこに横たわっていたそれが起き上がった。
「うわっ!」
思わず後ろへ飛びのき、その人を見つめる。
チャンミンだけどチャンミンじゃない、チャンミンと似た人間でもない物質。
なんか、急に寂しくなった。
虚しくなった。
「ユンホ君…?」
やっぱり、違うんだ。
見た目は同じでも、中身は違う。
オレが好きになったチャンミンはやっぱり独りしかいない。
そう。独りしかいないんだ…。
13へ続く。
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